ベトナムへの就職・転職を考えるとき、給与や仕事内容と同じくらい気になるのが社会保険と年金の扱いではないでしょうか。
ベトナムにも日本と同じように社会保険制度がありますが、加入義務の範囲や保険料率、年金の受け取り方は日本と大きく異なります。さらに2025年7月には社会保険法が改正され、外国人労働者にも関わるルール変更がありました。
この記事では、ベトナムで働く日本人を対象に、社会保険・年金の基本的なしくみから最新の法改正、日本の制度との違い、帰国時に払った保険料がどうなるのかまで、就職前に押さえておきたいポイントをまとめて解説します。
目次
ベトナムの社会保険制度の全体像

ベトナムの公的保険制度は、大きく3つに分かれています。
- 社会保険(BHXH):退職後の年金や傷病手当、出産手当、労災給付などをカバー
- 健康保険(BHYT):医療費の一部を保障
- 失業保険(BHTN):失業時の給付制度
このうち外国人労働者が加入するのは、原則として社会保険と健康保険の2つです。失業保険は外国人には適用されません。(ベトナム社会保険庁 FAQ)
外国人労働者にも加入義務がある
「外国人だから関係ない」と思われがちですが、実はベトナムで一定期間働く外国人には社会保険の加入義務があります。
具体的には、労働許可証(ワークパーミット)を保有し、1年以上の労働契約、または無期限契約を結んでいる外国人が対象です。日本人の駐在員や現地採用者も、この条件に当てはまれば加入しなければなりません。
一方で、次のようなケースは加入義務の対象外とされています。
- 労働許可証に「社内異動者」と明記されている駐在員(海外企業からベトナム拠点への一時的な異動者)
- ベトナムの定年退職年齢に達している人
※2026年時点で男性61歳6ヶ月・女性57歳(段階的に男性62歳・女性60歳まで引き上げ中)
2025年7月施行の改正社会保険法では、これまで「ベトナム人配偶者がいる外国人」は労働許可証の取得自体が免除され、それに伴い社会保険加入も免除されていましたが、12か月以上の労働契約がある場合は加入義務の対象に変更されています。該当する方は注意が必要です。
なお、有給休暇やテト(旧正月)ボーナスなど、社会保険以外も含めたベトナムの福利厚生制度全体については、「ベトナムの福利厚生とは?有給・保険・テトボーナスなど日本との違いを解説」でまとめて紹介していますので、あわせてご覧ください。
出典:
ベトナム社会保険庁 FAQ
改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第2条
日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信 ジェトロの海外ニュース
保険料はどれくらい負担する?
保険料は、毎月の給与のうち、職務・役職に応じた賃金、一定の手当、継続的・安定的に支給される補足額などを基準として計算され、会社と本人がそれぞれ一定割合を負担します。
外国人労働者の場合、目安となる負担割合は次のとおりです。
| 項目 | 会社負担 | 本人負担 |
| 医療保険 | 3.0% | 1.5% |
| 社会保険(老齢・死亡14%+疾病・出産3%+労働災害・職業病0.5%) | 17.5% | 8& |
| 失業保険 | 0%(外国人従業員は対象外) | 0%(外国人従業員は対象外) |
| 合計 | 約20.5% | 約9.5% |
出典:
改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第33条・第34条(および施行細則 政令158/2025/NĐ-CP)
健康保険料率:ベトナム社会保険庁 595/QĐ-BHXH(2017年)第18条、政令188/2025/NĐ-CP (2025年)
退職・遺族年金部分の外国人への適用は2022年1月から義務化されたもので、比較的新しいルールです。それ以前は、疾病・出産、労働災害・職業病および健康保険が主な対象でした。(政令143/2018/NĐ-CP第9条・第10条・第17条)
また、保険料の算定には上限があります。2025年7月施行の改正社会保険法では、保険料算定の上限は「参照額(mức tham chiếu)」の20倍とされています。現在は参照額が基礎賃金と同額とされており、2026年7月1日から基礎賃金が月額253万VNDに引き上げられたことに伴い、算定上限は月額5,060万VNDとなっています。そのため、給与がこれを超える場合でも、原則として上限を超える部分について社会保険料・健康保険料は増加しません。
ベトナムの年金、受給条件と金額の決まり方
前章で見た保険料のうち、「退職・遺族年金部分」は将来受け取る年金の原資になります。では実際、どのくらい払えばいくらもらえるのでしょうか。
受給条件は2025年7月に緩和
これまでベトナムで年金を受け取るには、社会保険への加入期間が最低20年必要でした。しかし2025年7月施行の改正社会保険法により、この最低加入期間が15年に短縮されています。(改正社会保険法41/2024/QH15 第64条)
短期就労者や転職の多い人にとっては、年金受給の間口が広がったことになります。ただし加入期間が短いほど受給額は少なくなるため、長く加入するほど有利な設計自体は変わりません。
年金を受け取るには、加入期間の条件に加えて定年退職年齢に達している必要があります。
年金額はどう計算される?
年金額は「年金率×平均拠出基礎給与(在職中に社会保険料の基準となっていた給与の平均額) 」で計算されます。年金率は、加入期間が女性15年・男性20年の時点で45%からスタートし、 その後は加入1年ごとに2%ずつ加算され、上限は75%です。(同法第66条)
つまり同じ給与水準で比べた場合、加入期間が長いほど年金額の割合は大きくなるしくみです。
出典:改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第64条・第66条
帰国するとき、払った保険料はどうなる?

日本人にとって特に気になるのが、「ベトナムを離れるとき、それまで支払った社会保険料はどうなるのか」という点ではないでしょうか。
一時金として受け取れるケース
外国人労働者は、社会保険への加入を終了したうえで一定の条件を満たし、本人が申請することで、社会保険一時金を受け取ることができます。主な受給事由は次のとおりです。
・法定退職年齢に達したものの、社会保険の加入期間が15年未満の場合
・がん、ポリオ、非代償性肝硬変、重度の結核、AIDSなど、法律で定められた重い疾病に該当する場合
・労働能力が81%以上低下している場合、または特に重度の障害がある場合
・年金の受給要件を満たしているものの、ベトナムに引き続き居住しない場合
・労働契約が終了した場合、または労働許可証・職業資格証・営業許可等が失効し、更新されない場合
日本人の現地採用者が退職・帰国する際に特に関係しやすいのが、「労働契約の終了」です。外国人については、この事由で社会保険一時金を申請するための最低加入年数は定められていません。そのため、年金受給に必要な15年の加入期間に達していない場合でも、労働契約の終了など所定の要件を満たせば、社会保険一時金を申請することができます。
なお、一時金は、それまでに支払った社会保険料がそのまま全額返金される制度ではありません。受取額は社会保険の加入期間や、保険料算定の基礎となった給与などをもとに計算されます。(改正社会保険法41/2024/QH15号 第70条第2項d号・đ号。受給手続・算定の詳細については、同法および関連施行政令を参照 )
出典:改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第70条
日本の社会保険・年金との違い

ここまでベトナムの制度を見てきましたが、日本との違いを整理しておきましょう。
保険料率・保険料の決まり方
日本の厚生年金保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ(9.15%ずつ)負担します。自営業者などが加入する国民年金は定額制で、2026年度(令和8年度)の保険料は月額17,920円です。
ベトナムの社会保険は給与に対する定率制で、しかも会社負担の割合が本人負担よりかなり大きい点が特徴です。日本と比べると、会社側のコスト負担が重い制度といえます。
二重加入問題と、進み始めた協定交渉
見落とされがちですが、実務上とても重要なのが社会保障協定の有無です。
日本とベトナムの間には、現時点で社会保障協定が締結されていません。そのため、日本企業からベトナムへ派遣される駐在員については、日本の厚生年金保険料を払い続けながら、ベトナムの社会保険料も負担しなければならない「二重払い」の状態が続いてきました。
この状況を受けて、日本の外務省は2025年7月、日本・ベトナム間の社会保障協定締結に向けた政府間交渉を開始したと発表しました。実現すれば、保険料の二重負担が解消されるほか、両国での加入期間を通算して年金受給要件を満たしやすくなる可能性があります。ただし本記事執筆時点(2026年)では交渉段階であり、協定はまだ発効していません。今後の動向は、外務省などの公式発表で確認することをおすすめします。
出典:外務省ウェブサイト 「ベトナム社会主義共和国 日・ベトナム社会保障協定の政府間交渉の開始」(令和7年7月18日)
ベトナム就職を考える人が押さえておきたいポイント
最後に、実際にベトナムでの就職・転職を検討する方向けに、要点を整理します。
駐在員か現地採用かで扱いが変わることをまず理解しておきましょう。日系企業からの駐在員で社内異動者として労働許可証に明記されている場合は、ベトナムの社会保険加入が免除されるケースがあります。
一方、現地採用として現地法人と直接雇用契約を結ぶ場合は、条件を満たせば加入義務の対象になります。自分がどちらの立場に該当するのか、雇用契約や労働許可証の記載を確認しておくと安心です。
制度は頻繁に変わるという点も念頭に置いておきましょう。2024年6月に可決、2025年7月に施行された改正社会保険法だけでも、加入対象の拡大、受給要件の緩和、一時金ルールの厳格化など、多くの変更がありました。就職や転職のタイミングで、最新の制度を確認することが欠かせません。
まとめ
ベトナムの社会保険・年金制度は、日本の制度と似ているようで、加入義務の範囲や保険料率、受給の条件まで細かい部分で違いがあります。特に日本人にとっては、二重加入や帰国時の精算方法など、日本にいるだけでは気づきにくい論点も少なくありません。
制度は今後も変わる可能性があるため、就職・転職を検討する際は、直近の法改正情報や会社の人事担当者、現地の専門家への確認を通じて、最新の内容を押さえておくようにしましょう。
出典
・改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第2条第2項
・改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第33条・第34条(および施行細則 政令158/2025/NĐ-CP)
・改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第64条・第66条
・改正社会保険法(Luật Bảo hiểm xã hội 41/2024/QH15)第70条
・政令143/2018/NĐ-CP 第9条・第10条・第17条
・健康保険料率:ベトナム社会保険庁 595/QĐ-BHXH(2017年)第18条
・ベトナム社会保険庁 FAQ
・日本貿易振興機構(ジェトロ)ビジネス短信 ジェトロの海外ニュース
・外務省ウェブサイト 「ベトナム社会主義共和国 日・ベトナム社会保障協定の政府間交渉の開始」(令和7年7月18日)
